沢井箏曲院  石榑雅代 ニューヨーク教室
Sawai Koto Academy  Ishigure Masayo in NY


写真bP  NYTVの録画リハーサルにて

   
ニューヨーク邦楽事情 その2345678910

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5152535455565758 2017/6/26 

その
@@やってみたいことが なんでもやれたりする街 ”ニューヨーク”
私が最初に考えたこと

96年にコネチカット州からニューヨークのマンハッタンに引っ越してきて、
「さて何から始めようか?この街で?」
まずはお琴を、お金をかけずに人に見せるためには...。
そうか、夏になると公園に人がたくさんいるよなー。
一度行って弾いてみるか!と、思いつきで始めたストリートパフォーマンス。

しかし実際は、思ったほど楽ではなかった。マイクを使うためにはニューヨーク
警察の許可が必要らしい。本当に手続きに時間がかかる。すでにトホホ...。疲れ
る。

97年の夏には、18人のメンバーがそれぞれお琴をかつぎ、バスや地下鉄でマン
ハッタン中心部のニューヨーク大学にほど近い、ワシントンスクエアパークに11
時に集合。             (写真bQ)
多くのメンバーが彼、彼女、または伴侶を引き連れての登場。
ご苦労さま。思わず頭が下がる。
2メートルもある、長い得体の知れない物を担いだ人間がまとめてバスに乗って
くれば、さすがのニューヨーカーも???
もちろん、車内はしィ〜〜〜ん!目がテン。
(ちなみにニューヨークは交通手段が発達しているので、車を持つ必要性があま
りないかも。
でも自分で楽器を担いで移動しなくちゃならないから、演奏以前に人並みはずれ
た体力が必要ですよねー。)

ある日バスの中で、ある子供が近くに来て
"Excuse me. Is this a coffin?"
「すみませ〜ん。おねえさ〜ん。これって棺桶でしょ?誰が死んだの?」
一同「.....(棺桶かー。そう言われてみれば...!?)」

こんな質問にも少しづつ慣れるメンバー。聞かれたら聞かれた以上のことまで答
えてあげましょ!!とアメリカ式の考え方に基づき、フレンドリーにお琴の説明
をバスの中で始めるアメリカ人あり。
すぐに友達気分になりやすいこちらの人たちですから、車内はお琴の話で盛り上
がり、後で演奏を見に来る約束までとりつける!(デカしたっ!!)
そして、本当に見に来てくれた人。ナント最後には見ているだけではつまんな〜
い、ときた。
それでは誰でもよく知っている「きらきら星」でも弾いてみましょう!!という
ことになり。やれば意外と出来る。結構楽しいんですよ。そしてお客さんの多く
は、Tipとして$1〜$5程度を缶の中に入れて下さるのです。(うれしい〜)
このような事を続けているうちに、次々と演奏の機会が与えられて、昨年は当時
野茂選手が所属していたニューヨークMETSが行っている「アジアナイト」に、
日本サイドの代表として日本舞踊のグループと共に参加しました。(写真bR)


写真bQ 毎年恒例ワシントンスクェアーでのパフォーマンス


写真bR ニューヨーク・メッツシェイクスタジアムで行われた”Asia Day”
ホームプレート後方で箏の演奏を披露、熱戦の前の3分間の静けさ。
(YOMIURIAMERICAより)

@@最近外国人作曲家が日本の楽器に非常に興味を持って
いるように思います。

今年の3月に、ドイツ人作曲家のよる琴とトロンボーンの為の曲 [starands] を
私のリサイタルで演奏しました。その後、コンサートに来ていたらしい
アメリカ人の作曲家から私の自宅宛に、お琴を使った曲の楽譜がたくさん送られ
てきてびっくり。
それはそれは美しい日本語で書かれているお琴譜も含まれており、彼の楽器(日
本?)に対する興味の深さを感じさせられるものでした。
また今年4月には、カーネギーホールでNHK交響楽団による演奏が行われました
が、その中でロシアの作曲家ソフィア・ドゥードリナ氏による琴とオーケストラ
の為の {IN THE SHADOW OF THE TREE} が沢井一恵先生により演奏されまし
た。
この曲は日本の13弦&17弦と中国の琴の3面を使用し、バイオリンの弓で弾いた
り、花瓶で音を出したりする場面もあり、ここで琴を勉強している生徒たちも食
い入るように見ていました。
コンサートの後は、数人の生徒と沢井一恵先生との楽しいPartyもあり、本当に
楽しかった!!       (写真bS)

現在、ある有名中国系アメリカ人作曲家が、お琴をオペラの中で使うことを検討
しています。
実現することを祈っているところデス。

@@やっぱり電波の力は凄いと思う!!

日頃から常々そう思っていた所に、マンハッタンのローカルケーブルテレビ局
(30分番組)から出演の依頼が。二つ返事で引き受け、無事収録。
私が日本に行っている間に放送されていたのですが、面識のない人々から「テレ
ビを見た」とのE-mailが届いていました。その内容はさまざま。

1. 日本の映画に出てくるから知っていたよ!
2. ウチにもこれと同じ楽器がある。日本人の友達から貰ったんだ!はじめてこれ
がどんなものかがわかって良かった!(ほんまや!)
3. 着物ってきれ〜い。着てみた〜〜い!! 等など。

他にもいろいろありましたが、とにかく電波の力の凄さを改めて思い知ったわけ
です。           (写真bP)

@@味をしめたら次の舞台が待ち遠しい様子です。

88年に沢井一恵先生によってコネチカット州のウエスリアン大学音楽部での琴&
三味線のクラスが再開されました。私は3人目の講師として92年から担当してお
り、今年で8年目になります。当初は週に25人ほど教えていましたが、その学生
の中には卒業してからも引き続きお琴を弾いている人もいます。他にも、「アメ
リカ人と結婚したら急に日本の物が恋しくなって...」とか、「昔習っていたんだ
けど、折角なのでまた弾いてみようかしら...」など、それぞれの理由で現在、沢
井箏曲院NYでは約15人の生徒さんがお琴の勉強をしています。
アメリカ人、中国人、日本人、etc. といろいろおりますが、言葉の問題も何のそ
の。
皆さん和気あいあいと楽しくやってます。
毎年春にはウエスリアン大学での演奏もあり、かなりマジでガンバッテいます。
マンハッタンから大学のあるコネチカット州までは車で約2時間半くらいかかり
ます。
観光バス程大きいクルマを借りてじゃんけんで負けた人が運転していくとか!!
ほとんどピクニック状態ですね。昨年のコンサートでは、ボストンやワシントン
DCに在住の卒業生も参加して、実に楽しい演奏会になりました。

@@次々に舞台があり、練習がもう大変です!!

沢井忠夫先生の作品は5線譜で書かれているものも少なくなく、お琴をはじめて3
カ月という人も参加したければ、一言「練習しよーね!」という具合で。
しかし5線譜の読み方どころか、まずお琴についての説明から始めなくてはなら
ない。
私自身もこうなると根気と忍耐、そして体力。やるしかないでしょ。
こうして無事?に本番を迎える訳です。



写真bS 生徒さんたちと沢井一恵さんをお迎えして・・(石榑宅)

@@最近の邦楽は...。

冬が長いニューヨークでは、短い夏を利用してあちこちでサマーコンサートが連
日行われていますが、その時の催しに日本音楽も参加する機会が多くなってきま
した。
JAZZや洋楽器とのセッションも盛んに行われているようです。

私は先日はじめて天蓋をかぶって尺八を演奏している人を見ました。というか、
その人と一緒にコンサートに出たのですが。
皆さんは今までに天蓋をかぶっている尺八Playerを見たことがありますか?
お恥ずかしいのですが、私はその時がはじめてでした。
ニューヨークでは日本人より外人尺八Playerのほうが圧倒的に多いのが現実です
(理由はわかりません)
これは日本の楽器だけに限らず、多くの国の伝統楽器演奏者が違う音楽世界を求
め始めているからでしょう。単なる伝統楽器という時代はすでに去り、世界に共
通する一つの楽器としての確立がかなり進んでいることを感じます。


新しいサウンドに挑戦
トロンボーンと箏の競演(2'04")MP3
(作曲者) Stefan Hankenberg
(箏)Masayo Ishigure
(トロンボーン)Russel Jewell

エッセイその2  1999年10月1日

@@ニューヨークで屋形船は?

最近日本食レストランの寿司カウンターでNew York Timesを片手に熱かんで一
杯、な〜んていう外国人をよく見かけます。まあ此処数年日本食レストランが増
え続け、昔ほど高級ではなくなったとは思いますが、それにしても外国人がカウ
ンターでお刺身の盛り合わせと熱燗とはねー。
そして一方の私たち日本人が地味〜に天ぷら定食、焼き魚定食に大満足している 
というのにね..。
何ともさみしい....。

そんな光景を目のあたりにして、時代が変わりつつあることをつくづくと感じま
す。そして暫くこの日本ブームは続くのかと考えていた時、先日のある出来事を
思い出しました。

半月ほど前に、マンハッタンの夜景を見ながらの夕食とダンスパーティ等がある
クルーズに参加しました。(実はひょんなことで1枚の招待券を入手。もう一枚
を割り勘にして、友人を誘って参加してみたのです。せこ〜い!)

船内ではとびきりの笑顔でウエイトレスが出迎えてくれ、いよいよ待ちに待った
DINNERがスタート。
豪華客船とは間違っても言えないけれども夜景は最高!
雰囲気も出て来たところで、いよいよお待ちかねのエンターテイナーの始まりです。
しかしよく見れば、おや?さっきまで食事を運んでいたウエイトレスの皆さんが
あれよあれよと言う間に早変わりし、お盆をマイクに持ち換え、派手な衣装に身
を包みなかなかの熱演。感心の一言。

そこで一緒に行った友人と盛り上がった話し。
それは夏のこの時期、ニューヨークで屋形船に赤い提灯ぶら下げて、冷や酒に枝
豆、おまけに盆踊りをみんなで踊りましょう!とかいうDinnerクルーズがあった
なら、結構楽しそうだから満席になるのでは?話題になって日本好きの外国人が
興味を持つんじゃないの?
入り口ではお琴演奏のお出迎え!!きっと雰囲気も抜群。
新しい物好きのこの国ではマジでいけるかも。
こんな船が本当にあったらきっと予約が殺到しそうですね。誰か船持っている人
知りませんか?
もうすっかり秋になってしまったニューヨークですが...。

9月の終わりには、外国人主催のお月見の行事があちらこちらで行われていま
す。
日本でもお月見の行事ってよくあるのでしょうか?まん丸のお月様の下で鈴虫と
お琴の音を聞きながらいただくワインが、またなかなかオツなものらしいです
よ。(「オツなものらしい」と言うのは、残念ながら私はいつも演奏サイドでゆ
っくり雰囲気を味わう余裕はございません。)

話が横道に逸れついでにもうひとつ。
これからの時代は、ある程度どんな事でも器用にやりこなせる才能と経験、自信
が必要とされる時代が来た様に思うのは私だけでしょうか?
私は最近マンハッタンの小さなお洒落なカフェで、お話を交えながら約1時間の
演奏をしているのですが、楽しいお話をしながら演奏をするという事が決して上
手とは言えない私にとっては、新たな試練の場所でもあります。ある日突然上手
く出来るというものではないのですよねー。鏡の前で笑顔の練習までしている今
日この頃です。

いつかはあの船の中の歌って踊れるウェイトレスさんたちのように...。
あ〜〜、焦るなっ!!



エッセイその3  1999年12月22日

いよいよクリスマスが今週末に迫り、街中どこも本当〜〜に素晴らしい飾り付け
で、New Yorker&世界中から集まった観光客の人々の目を楽しませてくれていま
す。皆さんもよく御存知のフィフスアベニューは、朝早くから夜遅くまで人でご
ったがえし、誰もがロックフェラーセンターのクリスマスツリーを一目見ようと
必死の様子です。確かに豪華さでは他に類を見ない演出ですね。

そんな中、私は以外に普通の生活をしているわけで...。

1. 菊まつりは当然日本だけで行われている行事かと思っていましたが、外国に
もちゃんとあったのです。前回書きましたが”お月見”もやっています。
NYから、クルマで約2時間半の所に位置するフィラデルフィアに大きな公園が有
り(Long Wood Garden)、毎年この公園の巨大温室内で、菊まつりが約1か月半に
わたって行われました。

(写真1,2)これらの菊は日本人が地元で栽培しているそうですが、どれも立派
な菊ぞろいで、私達日本人でもあまり見た事がないような品種改良された菊など
が会場一杯に飾ってありました。
日本では菊の花と言いますと、何となく葬儀用と言うイメージがありますが、よ
く見ればと言うか、所変わればとでも言いましょうか、素晴らしく可愛らしい美
しいお花なんですよね。
こちらではプレゼント用の花束にも当然のように入っています。私がアメリカに
来たばかりの頃、
コンサートの後にお花を頂いたら殆ど菊ばかりで、実は目が点になってしまった
事を思い出します。

 今回こちらの会場では、期間中毎週末、日本の伝統文化の紹介がステージで行
われ、私達のグループも2日間演奏しました。他にもワシントンDCや 地元のお琴
のグループが参加しており、今まで交流のなかった方々ともお琴を通じて色々な
お話ができ、今後何か一緒に活動が出来ないだろうかという意見も出て、ゆっく
り考えを練り、いつか "Koto festival in USA" が叶ったらと思います。
 
すでに御存知の方も多いと思いますが、一昨年アメリカのコロラド州で尺八
festivalが行われ、日本とアメリカから、大勢のplayerが参加されたと伺いまし
た。流派を越えて切磋琢磨しあう事、そして一つの事を通してたのしい時間を共
有出来る仲間が集まることは、とても良いことではないかと思います。

2. 先日マンハッタンで、中国協会主催の日本の「琴」、中国の「チン」、韓国
の「コムンゴ」という、3つの国で違った発展と遂げた弦楽器による演奏会が行
われ、それぞれが古典と新しい曲を数曲ずつ演奏しました。(写真3)
 
簡単に、中国のチンと韓国のコムンゴについて楽器の説明をします。
中国のチンは、長さが約1メートル強、弦は絹糸で7本、桐の木で作られていま
す。柱はなく、演奏は左手で弦を押さえて音を作り、右手に小さなべっこうの爪
をテープで装着して弾きます。とても音が小さく演奏時にはマイクが必要です。

 韓国のコムンゴは長さが約2メートル弱、座って太股の上に楽器を乗せ、あぐ
らの様な格好で演奏をします。弦は6本、桐と栗の木で作られています。中央の3
本の弦にはフレッドがついており、残りの3本は琴柱が立っています。木製の細
い棒で(菜箸みたいな?)押し&ひっかけるようにして音を出します。音色はウ
ッドベースのような太い音で、メロディーをきかせるというよりは切れのいいリ
ズムが特徴的な楽器です。しかしやはり音はそれほど大きくないのでマイクを使
用します。今現在でも韓国では、演奏家は男性に限られているそうですがこの方
は女性でした。

お客さんの感想の一部ではありますが、この3つの楽器を聞き比べたとき、日本
のお琴の曲が一番聞き易いmelodyを持っており、楽器自身が持っている音も素直
&繊細であるとの感想が多く聞かれました。

 韓国&中国にも、日本のお琴に形や音色の近い楽器があります。中国琴のグー
チェン、(21弦、取り外ししない柱を用い、小ぶりの爪を3つ右手にテープでそ
の都度つけます。音は大きくよく響きます)と、韓国のカヤグム(糸は12本、柱
も12個、太い17弦用程の絹糸、爪を使わず右手の指ではじいて演奏する。柱は同
じく外さず、音は小さめ)です。

 97年には、この3つの楽器による演奏会がハーバード大学でありました。プロ
グラムの中で一曲、作曲家がこの3つの楽器の為に作曲をしました。それぞれの
楽器が持った特性を生かしたとても良い作品であるというのが私達3人の演奏者
の感想でした。

 今回の中国協会でのconcertの解説には、メトロポリタン美術館楽器セクショ
ンの Mr.ケン氏が抜擢され、演奏の前に三国の文化の違い、次に楽器の歴史を流
れるように説明。
このようなお仕事の方は、流石に何でもよく御存知でいらっっしゃる。軽い気持
ちで「よく御存知ですすね!」なんて口を滑らせようものなら、「一様専門分野
ですからね..」と優しい笑顔の裏では ”君知らないの?”と思っていらっしゃ
るかどうかはわかりませんが、自分の国の事さえもまともに知識がないことを、
思い知らされる時でもあります。

日本でも色々な国の楽器をもっと間近で見たり聞いたりし、お互いが情報を交換
したりするチャンスが頻繁にあれば良いと思います。それは、幅広い意味でとて
も勉強になりますし、今後これらの他の楽器とコラボレーションをするきっかけ
になるかもしれません。
また伝統音楽&楽器を伝承していく上の、一つの大切な部分にもなっていくので
はないでしょうか。でもこんなチャンスを見つける事はマジ難しかったりするん
ですよネ!......。



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